2010年3月22日月曜日

クォンタム・ファミリーズを読んだ。

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前回の小説「キャラクターズ」は桜坂洋との共著だったので、東浩紀単独では初の小説となる。

量子コンピュータによって、平行世界との通信ができるようになった世界が舞台となる。2035年の別の世界から送られてきた、こちらの世界では生まれていない娘からのメールが主人公の葦船往人に届く。メールを受け取った主人公は現代に生きていて平行世界の存在を知らず困惑するが、娘のメールの指示に従ううち、別の世界の葦船往人と入れ替わってしまう。「ゲーム的リアリズムの誕生」での「プレイヤー視点の文学」をまさしく体現している構図となっているはずだ。

ゲームのプレイヤーは、それがゲームであることを忘れたときにもっとも強くなれる


平行世界に関しては、「ゲーム的リアリズムの誕生」でも触れられていたけど、構造の楽しさ以上のものが感じられてなかった。最近のアニメや漫画でも平行世界をテーマにしているものは多いけど、それを現実世界にどうやって応用していけばいいのかが上手く実感できなかった。このクォンタム・ファミリーズでは、平行世界というフィクションの構造をいかに現実と繋げていくかへの言及があった。

 生きるとは、なしとげられるはずのことの一部をなしとげたことに変え、残りをすべてなしとげられる≪かもしれなかった≫ことに押し込める、そんな作業の連続だ。略。直説法過去と直説法未来の総和は確実に減少し、仮定法過去の総和がそのぶん増えていく。