2009年3月25日水曜日

われらが歌う時

リチャード・パワーズ著。高吉一郎訳。



 リチャード・パワーズの小説は『舞踏会へ向かう三人の農夫』、『ガラテイア2.2』、『囚人のジレンマ』と、日本語に翻訳されたものはすべて読んできた。今までの作品同様、本作でも時間を行き来しつつ物語が語られて行く。行き来する時間の中で語られるのは、ユダヤ系ドイツ人男性と黒人女性が、1939年にワシントンで恋に落ち、結婚し、築かれてゆく家族の姿だ。
 タイトルにもあるように歌が大きな役割を担っていて、それと同様に時間も大きな意味を持つのだけど、音楽と時間の組合せが物語に深みを与えている。『舞踏会へ向かう三人の農夫』は、一枚の写真をもとに時間を行き来するが、ここでは音楽をもとに時間を行き来している。両者を比較することで、音楽と時間の親密な関わりに気付かされる。

 だが、一番のテーマは人種問題だろう。人種問題があることは、知っていたが、日本にいる限りそれを実感することはない。巻末の訳者あとがきにも以下のようにある。
本書を読み終わる頃には、読者は経験不可能で想像不可能だったはずの二十世紀アメリカの人種問題を生きてしまっている。
 上下巻の一千頁を超える長編であることで、手を付けにくかったけど、読んでよかった。

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